彫刻版・腐食版の制作者にインタビューデザインのひきだし 46 の表紙にツジカワの箔押し版を採用いただきました!
先日発売された「 デザインのひきだし No.46 印刷・紙加工の大百科 箔押し&箔加工編」
ツジカワの彫刻版と腐食版を両方使用するという超豪華な表紙となっています!それだけではなく、なんと今回、雑誌の表紙としては異例の「箔100種×紙10種の1000パターンの表紙」が存在します。
当初デザインのひきだし編集長の津田様から
「今回彫刻版用の箔×10種 腐食版用の箔×10種 紙×10種 計1000パターンの表紙を作りたいんですよねー!!!!」
と伝えられた時は「ど・・・どうゆうことでしょうか!?」と正直度肝を抜かれました。加工会社様を初め、多くの方の並々ならぬ努力と熱意により驚異の1000パターン表紙が実現いたしました。今回はそんな表紙に使用された版がどのように作成されたかを紹介いたします。
様々なテクスチャーが混在するデザイン
最初にデザイナー様からお預かりしたデザイン案はこのようなものでした。
非常に多彩なモチーフがおもちゃ箱をひっくり返したように散らばる楽しいデザインです。
しかし、様々なテクスチャーが混在しており、実際に箔押し・エンボスするとなるとどのようになるのか、この時点ではまだ完成図が想像できておりませんでした。
彫刻版と腐食版の違い
今回表紙で使用された版は
- 彫刻版
- 腐食版
の2種類です。
この2種類の版はそれぞれ得意な箔押し表現が違います。
今回2種を同時に使用することでその違いが一目でわかるような表紙になりました。
それぞれの特徴は下記の通りです。
彫刻版(肉付版)
深さの違う有機的な立体感のあるエンボスを伴った箔押し表現が得意。
また、質感を表現するような微細な加工も得意とする。
機械彫刻のため納期がかかる&高価
腐食版
チェンジングや彩光腐食など微細な箔押し表現が得意。
最大で2段階の深さを出すことができる。丸みを帯びたエンボスなど有機的な表現は不可。
金属を腐食して作成するためデータ作成期間を除けば1~2日で作成可能&安価。
彫刻版・腐食版の作成過程をそれぞれ追っていきます!
彫刻版の作成過程について
今回彫刻版のデータ作成・切削を務めたのは機械部NC課です。NC課は今回の彫刻版のように、意匠性の高い加飾物のデータ作成からマシニングセンタによる切削までを請け負っている課です。これまでに数々の彫刻版を手掛けてきた実績があります。
作成者を直撃!
今回の版作成を担当したOさんに作成の経緯をお伺いしました。
コシノジュンコ氏作「対極の美ー無限に続く円ー」の3Dプリンター造形から設置まで
いや、無理やろ、と思いました笑
あんなに近い距離にサイズや複雑さが全然違う柄が並んでいるのはやったことがなかったから。きれいに箔押できる版を作成するためには、単にデータを作成するだけでなく、版の深さや角度にかなり調整が必要だと思いました。
元々のデータに画像データが多かったので(コイン、レンチ、イカ、バスケットゴールなど)まずはそれをトレースする作業をしました。
写真を鉛筆でなぞるように、画像をデータ上で線にしていくかなり大変な作業です。これの出来が後々の工程にもかかわってきます。
今回はモチーフが多かったので6人ぐらいで手分けしてレリーフ(3Dデータ)をつくっていきました。それぞれが作成したデータを統合して、柄の密集度などを考慮しながら微調整を繰り返しました。
うーん、どれも難しかったけど笑実在しないモチーフとかは、先方からの指示があるものの、データを作る人のイメージに委ねられるところもあるからどんな表現にするか悩みました。
あとは、イカ!これ一つのモチーフだったらもっと盛り上げることができるけど、近くに細い柄もあるし、そっちが上手く押せなかったら困るので、他の柄との兼ね合いを見ながらここが一番浮き出るように設定しました。
そもそもどのモチーフをとっても単体で難しいやつばっかりなんで。
それが密集してるっていうのはかなり難易度が高かったです。
経験ですね。今まで色々やってきた中でこれぐらい浮きあげると箔が付かない、とかこれまでの実績で。柄によって細くしたり太くしたり・・・ただ機械的に凹凸を作ったわけではないです。最終の3Dデータをクライアントに提出して、OKが出たので切削に取り掛かりました。
切削工具が通常よりもめちゃくちゃ多かった!!!今回細かい柄が多かったので細いカッターを多用したのですが、細いカッターで全部削ると当然進捗が遅くなるから太いカッターも必要。何度もカッターを付け替えなければいけないので、それもあって加工時間が長かったです。
クリアランス(凹版と凸版の間の隙間)に気を付けたかな。紙の厚みはもちろん考慮するけど、紙の厚み=クリアランスというわけじゃなくって、柄の大きさ、細かさ、密集度に合わせて適切に浮き上げ・箔押しできるように深さ・角度を調整しました。一概にオフセットして柄を小さくするわけではないです。
浮き出し加工は凹版と凸版で紙を挟んで浮き上げます。今回の凸版は樹脂でできている凸版です。 この凸版は金属製の元型を作成し、そこに樹脂を流し込んで作成します。
エンボスのみの版作成の場合とはデータ作成段階から作り方が変わってきます。エンボスだけだったらもっと迫力が出るように版の深度をいれたり角度を変えたりするけど、肉付箔押版は箔が付かないと意味がないので、あくまでそれを考慮しながらのデータ作り、版づくりとなります。
仕上げ担当者に聞いてみました!
NC加工機での切削が終わると今度は仕上課へとバトンタッチされます。
仕上げ課は出来上がった制作物をサンドペーパーなどで磨いたり、タガネ(ちっちゃいノミみたいな工具)で不要部を削ったり、これまた地味ながら非常に繊細かつ集中力を要する作業をするところです。
また、文字通り「仕上げ」という最終工程なのでここでミスをすると全ての工程が台無しになってしまうという恐ろしい作業をしているところでもあります。
今回の版を仕上げたAさんに話を聞きました。
やっぱり細い柄や細かいテクスチャーが多いから、不要な機械目(きかいめ:カッターなどで切削した跡)を消しつつ細かい柄を残すってゆう磨き加減には気を使ったね。
細かい柄は、磨き(削り)過ぎると柄が無くなり印刷した時に思い通りの表現が出来ないし、かといって箔押しするから不要な目が残っていると印刷物に反映してしまうから。
あと細かい柄を磨いてエッジがダレちゃう(角がとれる)とこれまた箔押し印刷時に箔がつかなくなる。磨くところと磨かないところは見極める必要があるね。
だからそれが見極めよ笑
ずっとこの仕事してるから。見極めは慣れ(経験)やろなぁ。
そうね、ひとつのモチーフだったら同じテンションで磨いていけるけど今回はモチーフによって再現したいテクスチャーや形状をイメージしながら仕上げていったよ。繊細なものは絵柄を殺さないように慎重に仕上げたからやっぱり通常よりは時間がかかったね。
やっぱり肉付箔押版だと印刷面に磨きスジが残らない様に磨く必要があるから時間がかかる。エンボスでも切削目や磨きスジが印刷に反映されやすい紙を使う場合気を使うよ。それでもエンボスのみの版だったら肉付箔押版の3分の1ぐらいの時間で仕上がるかなぁ。
以上今回の彫刻版作成に関わったお二方へのインタビューでした。改めて話を聞くと、核となる作業の判断材料として「経験」という言葉がどちらからも出てきたのが印象的でした。
腐食版の作成過程について
続いて腐食版の作成過程について紹介致します。
腐食版はこのようなものです
今回の表紙に使用された腐食版には「彩光腐食」と「マジックエンボス」という技術が使われています。
彩光腐食について
彩光腐食とは非常に微細なテクスチャーが表面に施されたホットスタンプ版です。
2段階で腐食されていることから2段腐食版と呼んだりもします。この2段階の腐食のうち、浅く腐食された部分に細かな模様を入れることができます。通常の腐食版と彩光腐食版の違いを図解すると下記のようになります。
この彩光腐食の微細エンボスパターンですが、数多くの既存テクスチャーからパターンを選択いただけます。また オリジナルのパターンを作成することも可能です(別途データ作成費必要)。
マジックエンボスについて
こちらは近年弊社で開発された比較的新しい技術です!腐食の手法としては彩光腐食と同じく2段階腐食なのですが、特殊なデータの作成方法で、浮き出ししていないのに浮き出ているような、立体的に見える効果を出すことができます。
腐食版データ制作者に聞いてみました!
今回は腐食版のデータを作成した製版部次長DTP課のSさんにお話を聞きました。Sさんは今回の表紙の打ち合わせ段階から参加してもらい、ツジカワのイチ押し技術や版でできること、できないことを丁寧に説明してもらいました。
画像データの修正やね。画像データから腐食版データ作成するって結構大変で。細すぎて版に反映されなそうな線や、箔詰まり(※)起こしそうなところを修正したな。
箔押し時に、細い隙間が箔で埋まってしまい柄が潰れてしまう現象
いや、トレースではなく元の画像に足すようなかんじかな。線を太くしたり・・・箔ヌケが良くなるように隙間を広げたり。この画像データのままだったら線が細すぎてうまく箔押し印刷できないから、牛のモチーフや泣いているモチーフのところ結構修正したなぁ。
この画像データからあの表紙の柄になるまでは結構色々な技術が使われてるねん。最初にざっくり形をトレースして、特殊な技術を使いながら細かい線を書き足して立体感をだしていったな。これに関してはイチから描き直したみたいなもんやな
実はこのチョコサンプルのアイデアを出したのは俺じゃなくて、DTPの若い子やねん。
最初このマジックエンボスの技術を開発しているときは、動物や水滴みたいな有機的なフォルムをどうやって立体的に見せようかと思って開発してて。モチーフとしては丸みを帯びた曲線的なものが多かってん。
それを若い子にやらせてみたら、このチョコってゆう直線的なモチーフで立体感を出すってゆうおもしろいのを作ってきた。これは俺では思いつかなかったからすごいな、と思ったよ。
これはツジカワが渡した彩光腐食パターンサンプルから先方が指定してくれたやつやね。
実はこれはめちゃめちゃ複雑な模様を組み合わせて作ってるパターンなんやけど継ぎ目がないのがポイントやな。拡大しても本当に複雑だからなかなか他には真似できないパターンやな。
クライアントの意図を正確に読み取り、ヒトの手で形にしていく
データを作成するのも機械、切削するのも機械ですが、そこには必ず知識と経験を持った人間の手が介在しています。
2次元データを3次元に起こすには、2次元のデータからデザイナーさんやクライアントの意図を正確に読み取り、イメージする力が必要です。
機械で彫刻された版をそのまま出すのではなく、版を使用する方々がツジカワの版を使って最高品質の制作物を生み出せるように必ず人の目と手で確認して仕上げる必要があります。
今回弊社の版をご使用いただいた加工会社様からは「極上の版」という最上級の誉め言葉をいただきました。
慢心せずもっといいものを作り出せるように営業・現場ともに力をつけていきたいと思います。
今回の特集記事は弊社の公式noteでも読むことができます。こちらは打ち合わせ~作成まで3段階に分けてより詳細に制作過程を取り上げておりますので、こちらもぜひご覧ください。
デザインのひきだしNo.46表紙 箔押し加工について ①打ち合わせ~デザイン決定 事例:02