こんにちは!ツジカワです。
脱プラ、SDGsが叫ばれる昨今、 ダンボールはほぼ100%リサイクル可能な環境配慮型のパッケージ素材として、非常に注目されています。

今回はそんなGフルートダンボールに印刷後エンボス・デボス加工を施して、めちゃめちゃイケてる!(←古)化粧箱を作製する現場に立会いましたッ!

完成品をチラ見せ
ウソみたいだろ。ダンボールなんだぜ。これで。

Gフルートダンボールについて

ダンボールは中芯(なみなみのところ)の波の高さ(フルート)でAフルートやBフルートといった種類に分かれます。
おそらく一般的にイメージされるダンボールはAフルートダンボールかと思われます(引っ越しや運搬などによく使用されるやつ)。
今回使用するGフルートダンボールはそれに比べるとだいぶ薄いもの。マイクロフルートと呼ばれたりもします。

Gフルートダンボールは、直接オフセット印刷が可能なダンボールで、お酒やお菓子などのパッケージによく使用されています。
直接オフセット印刷が可能ということは、印刷した紙や、ファンシーペーパーを貼り合わせる合紙の工程が不要ということ!

コストや手間を抑えられるといった利点があるダンボールです。

Gダンボールが打ち抜ききにセットされている様子

ダンボールにエンボス・デボス加工は難しい?

さて、そんな環境にやさしく輸送性・強度にも優れたダンボールパッケージですが、 「ダンボールにエンボス・デボス加工」した製品ってあんまり見たことがないのではないでしょうか?

ライナー(中芯を挟む2枚の紙)にエンボスパターンが入った紙を使用することはあっても、 ダンボールパッケージ自体に商品名やロゴがモリッと盛り上がったエンボス加工を施すことは稀です。
理由のひとつとして「中芯があるため、シワや破れが生じやすい」ということがあります。

エンボス・デボス加工は紙にムラなく圧力をかけることが求められますが、中芯があることによって、圧力のムラが出やすいのです。
結果的に浮きあげた紙が割れてしまったり、周りにシワが寄ってしまう、という事態になるのです。

ツジカワマークがエンボスされたダンボール
ダンボールへのエンボス失敗例
中芯がある方向に紙が割れやすい

通常ならばなかなかしないダンボールへのエンボス・デボス加工ですが、 今回は全判のダンボールに対して広範囲にエンボス・デボス加工を施そうというのだからかなりチャレンジングな試みとなります。

そもそも「エンボス加工・デボス加工とは?」という方は先にこちらをご覧ください!
エンボス加工 とは?デボス加工 とは?版の種類や仕組みを徹底解説!

株式会社アコーダ新潟工場(旧:株式会社エム・エフ・テック)様について

そんなチャレンジングな加工をされるのは株式会社アコーダ新潟工場(旧:株式会社エム・エフ・テック)様です。
最近導入された大型の打ち抜き機でエンボス加工ができないか、ということでツジカワにご相談をいただきました。

通常こういった試作の加工工程というのはなかなか取材できないのですが、
意匠性のある加工が広まって業界全体が盛り上がってほしい、ということで取材に快諾いただきました。
敷地(8,828坪)だけでなく懐もどでかい素晴らしい企業です!!本当にありがとうございました!

エム・エフ・テック様外観
株式会社アコーダ新潟工場(旧:株式会社エム・エフ・テック)様外観
駐車場でサッカーできそうなぐらい広い。

技術指導をするのは、ツジカワの箔押し・エンボスマイスター ワタナベです。
某大手印刷会社でパッケージ部門に長年勤めていた経験があるため、
自動機を使用したエンボス・箔押しに関しても専門的な知識を有しています。

旅館の受付で座るワタナベ
旅館の受付で休むマイスター・ワタナベ

枚葉打ち抜き機を使ったエンボス・デボス加工

今回使用する機械はこちら!

自動打ち抜き機
自動平盤打抜機『TRP-1060-SV AXIA』
全長4,5mはあるでっけぇ機械です。

通常はトムソン型(刃が埋め込まれている木型)をセットして、パッケージの形状を打ち抜く加工に使用されています。
実はこういった打ち抜き機を持っているところであれば、どこでもエンボス・デボス加工は可能なのです。
ワンポイントの絵柄であれば、トムソン木型にエンボス型(またはデボス型)を埋め込み、打ち抜きと同時にエンボス加工をすることなども可能です。
打ち抜き機はあるけどエンボス・デボス加工はやったことない、という加工会社様はぜひ挑戦していただきたいです!

打ち抜き機を使用したエンボス・デボス加工のメリット

  • 打ち抜き機を所有しているところであれば、新たな設備を導入しなくても加工ができる
  • リサイクルに影響を与えることなく加飾ができる
  • 絵柄によっては抜き加工とエンボス加工(あるいはデボス加工)を1工程で行うことも可能

絵柄について

エム・エフ・テック様がデザインされた絵柄の全体図はこちら!
お酒のパッケージを想定した、2種のオリジナルパッケージと加工見本のカードです。

絵柄が印刷されたGフルートダンボール
写真だとわかりにくいが
A全判【841×594mm)なのでめっちゃでかい。
エンボス・デボスのイラストレーターのデータ
グリーンがエンボス加工でパープルがデボス加工
印刷・弾きニス・UVコートニス・エンボス加工・デボス加工
それぞれの特徴がわかるデザインとなっている

ダンボールに対してこれだけ広範囲にエンボス・デボス加工を施すのは日本初の試み!!

・・・とワタナベが言ってました(予防線)。

このままでも十分素敵な絵柄なのですが、凸凹加工を施すとどうなるのでしょうか!?

複数版の同時加工を可能にする秘密道具:面付け板!

エンボス加工は上に凹版、下に凸版をセットして、両側から挟むことで紙を盛り上げる加工です。

エンボス加工図解 上に金属凹版 下に樹脂凸版を置き、間に紙を挟む。
エンボス加工図解

デボス加工はその逆で、上に凸版、下に凹版をセットして、紙を押し込む加工です。
今回の絵柄はエンボスとデボスが入り交じる加工なのでどっちが凹版でどっちが凸版?とか考えると頭がめちゃめちゃこんがらがります・・・。

会社ロゴのエンボス・デボスデータ
元データ
ここから完成形を想像するのは至難のワザ・・・!

とりあえず「上型に金属版、下型に樹脂版を設置して紙をはさむ」という点を理解しておいてください。
こちらは上型として使用する金属版です。
構成は木型(青い板)+アルミベース+マグネシウム版となっています。

面付け板に版をとりつけるところ
面付け板に版を取り付けるところ
圧力が減衰しないように、ベースとなる木型には
一般的なものよりも硬度が高い硬質ベニヤを使用している。

このアルミベースがツジカワの秘密兵器、その名も「面付け板(めんつけいた)」です!
この面付け板ですが、あらかじめ印刷割付けに合わせた版の取り付け位置に穴が空いているため、
版のセッティングが非常に容易です。
しかし、すごいのはそれだけではありません。
アルミベースと版に特殊な加工をすることで、版を取り付けた状態で、版の位置を微調整できるようになっているのです。

紙は温度や湿度の変化で伸びたり縮んだりします。特に大きいサイズの紙ほど、その変化が大きくなります。
今回のように、全判サイズの紙の複数箇所にエンボス・デボス加工(または箔押し)を施す場合、位置合わせをどれだけ早く行えるかが、全体の作業時間に大きく影響します。

木型に直接版を取り付けてしまうと、版を少し動かすのにもいちいちネジ止めをはずし、新たに穴を開ける必要があります。その場合、今回のようなケースでは、位置合わせ作業に膨大な時間と手間がかかります。

しかし、面付け板があれば、複数の版を簡単に設置できるうえに、版を取り外すことなく位置を微調整できるのです!

面付け板を囲んで取り付け方を指導しているところ
初めてお使いになられるお客様には丁寧にティーチングを行います

こちらの面付け板、版だけを購入する場合に比べると、もちろんプラスアルファの金額がかかるのですが、 現場の作業効率が上がり、作業時間を大幅に短縮できるため、複数版を一度に加工される場合は本当におすすめの製品です。

また、面付け板の良い点は版を取り付けた状態で保管できることです。 再度注文が来たときは版を取り付けた面付け板を機械にセットするだけで加工できるため、リピートが多い加工にもおすすめです。

面付け板のアップ クワエの文字が彫り込まれている
設計・アルミベース加工・版作製・穴あけ加工がワンストップでできるのもツジカワならではの強み

面付け板を使用するメリット

  • 取り付け穴が最初からあるので、簡単に版をセットできる。
  • 版を取り外さずに、位置の微調整ができる。
  • 複数の版を一度に取り付けて、まとめて加工できる。
  • 版を取り付けたまま保管できるので、再注文があってもスムーズに対応できる。

版にも色々と工夫があるんです!

今回は、ダンボールに対するエンボス・デボス加工ということで版も通常とは違う仕様になっています。
上型にはマグネシウム版を使用します。
ダンボールは硬い分、ひび割れしやすいため、 特殊な加工で版の表面を滑らかにすることで摩擦を少なくしています(通常のマグネシウム版と比べて光沢がでているのはそのせい)。

面付け板に取り付けられているマグネシウム版

下型にはニュークリアダイと呼ばれる樹脂版を使用しています。
ダンボールは厚く丈夫なので、エンボス加工で一般的に使用される樹脂版(ナイロン版)と比べるとかなり硬質な樹脂版を使用します。

樹脂製のオス版
樹脂版

エンボス・デボス版をセッティング

まずは上型のみで位置決めを行います。上型(マグネシウム版)を機械にセットします。

版と面付け板を取り付けた木型をチェイスにはめ込む
版と面付け板を取り付けた木型をチェイスにはめ込む

上型といいつつ下に取り付けているように思えますが、
実はこのあとぐるっとチェイス(木型を設置した部分)が回転して上下逆さまになるのです。

下型(樹脂版)を取り付ける

さて、上型の位置が決まれば、次は下型を取り付けます。
上型と下型の位置がずれていると、加工の際に版が壊れてしまうので、上型の真下に下型が来るようにセッティングします。

下型(樹脂版)の裏面に両面テープを貼ります。
両面テープと言ってもよく文房具屋に置いてある指でちぎれるタイプではなく、PET基材のものを使用しています。

テープを貼った樹脂版
樹脂版のうらに両面テープを貼った状態(はくり紙があるので白い
エンボス版の上型に下型をはめ込む
樹脂版に接着した両面テープのはくり紙をはがす(黄色いのは両面テープの色)

上型に下型をはめ込んでテープで軽く接着します。
これは、上型をひっくり返したときに下型が落ちないようにするための仮止めです。

エンボス型を取り付けたチェイスを持ち上げる
この状態で上型がついたチェイスを回転させると
エンボス型を取り付けたチェイスを回転させて上型が下向きになった状態
こんな状態になります
このときに下型が落ちないように仮止めしてある

上型と下型がくっついた状態で、打ち抜き機を動かすと、下型の裏に貼った両面テープが下方の面盤に貼りつき、下型が転写されるわけです。

下型が面板がわに取り付いた状態

文章による説明が難しすぎるので動画にまとめてみました!

エンボス加工とムラトリ作業

さて、とうとう位置決めがおわったので、エンボス・デボス加工にとりかかります。

最初は圧力抑えめで加工して位置がずれていないかを確認。
問題がなければ圧力を強くしていきます。 一旦MAXぐらいまで圧力をかけてみると、割れたりシワになる部分が出てくるので、その部分のムラトリをしながら圧力を調整していきます。

エンボス・デボスをかけた稲穂と流水紋の絵柄
MAXに圧をかけた例流水模様の部分がバキバキに割れているのがわかる
触ってみると稲穂の部分もひび割れでザラザラしていた

ここはワタナベの腕の見せどころ。 ドラ◯もんのようにお助けアイテムを次々と出してきて、版の上や下に細工を施していきます。

こういった、圧力のムラを取る作業をムラトリといいます。

エンボス・デボス版のオス型のムラトリ
高低差が激しく割れやすい部分は
クッションになる素材(画面中心の白いやつ)を敷くことで部分的に圧力を減衰させる

書いてみると「そんなものか」と思えそうな内容なのですが、 ムラトリを行う場所や材料選びも全てワタナベが今まで培ってきた経験と、長年の研究から得た知見に基づいているのです。

エンボス後の刷本を確認するワタナベ
問題のある部分を確認して調整を繰り返す
エンボス版の上にムラトリシートを置いている
大きい絵柄と小さい絵柄が隣接すると圧ムラが生じやすい。
絵柄が少ないところにクッションシートなどを貼って圧を分散させる。

下型(樹脂版)には型の下にフィルムや紙を敷くなどの圧胴仕立ても行っています。

エンボス・デボスを施したGダンボールパッケージが完成!!!!

そんなこんなでついに納得のいく仕上がりにたどり着きました!!

日本酒の外箱を模したエンボスダンボールパッケージ
2種のG段ボールパッケージ
パッケージに印刷後エンボスされた封蝋のモチーフ
封ろうの立体感たるや!
稲穂の印刷にエンボスを施したパッケージ
本物の稲穂ですか!?
M.F.Techの細文字の印刷にあわせたエンボス文字
細い文字のエンボスも見当がバッチリ合っています
流水紋のデボス
バキバキだった流水紋のデボスもこのとおり!
桜の絵柄にエンボスを施したパッケージ
こちらも細かい絵柄ですが見当がバッチリ合っています
桜の絵柄にエンボスを施したパッケージ
工場長の方から「紙の表現を超えている」とのお言葉をいただく
桜の絵柄にエンボスを施したパッケージ
この桜、実はエンボス加工のまわりにデボス加工が施されているため、
エンボスがより引き立つデザインになっています
桜の絵柄の元データ エンボス部分とデボス部分が色分けされている
元データを見るとわかりやすいね!
(グリーン:エンボス パープル:デボス)
文字部のエンボス加工
左:エンボスなし 右:エンボスあり
エンボスをかけることで、表面加工による光沢が強調されていることがわかる。
文字部のデボス加工
左:デボスなし 右:デボスあり
こちらも印刷をより引き立たせる立体感が付与されている

エンボス加工・デボス加工でパッケージはもっと面白くなる!

見れば見るほど、その表情の豊かさに目を奪われるG段ボール化粧箱ができあがりました。まだ売り場でG段ボールにエンボス・デボスを施したパッケージを見たことがないので、採用されたら売り場で目をひくこと間違い無しです。
株式会社アコーダ新潟工場(旧:株式会社エム・エフ・テック)様は今までもエンボスにトライされたことはあったものの、細かいノウハウまではわからず色々とご苦労されていたとのことでした。
新しい加飾表現を求めてツジカワにお声掛けいただいたのは、まことに光栄であり、そのお手伝いができたことは大きな喜びでした。

近年、環境配慮の観点からパッケージへのエンボス・デボス表現が注目を集めています。
エンボス・デボス加工について「こんなことできない?」といったことがあれば、ぜひツジカワにご相談ください!
最後までお読みいただきありがとうございました!