2024年6月グラフィック社から発売の「デザインのひきだし52」の表紙加工に、ツジカワのエンボス版刃型を採用いただきました!

デザインのひきだし52
角度によって色が変わる不思議な紙
デザインのひきだし52 製本前の表紙
神秘的な色合いが星座モチーフにピッタリ

過去にも表紙の加工に弊社の版をご使用いただいたことがありますが、

今回は「 腐食・彫刻のハイブリッド版」と「 腐食刃」を初めてご使用いただくこととなり、

弊社としても嬉しい限りです。

というわけで、今回の版・刃型作製の過程と、エンボス加工・抜き加工の立会いの様子などをご紹介していきます!

打ち合わせ→仕様決定

2024年3月ごろ、デザインのひきだし編集長の津田さんから
表紙加工にツジカワのエンボス版を使用したい旨ご連絡をいただきました。

    

同時期に、紙加工のリサーチの一環として、 小石川工房ワタナベのところに取材にきていただきました。
ツジカワにおけるワタナベの役割や、様々な箔押しやエンボスの実績、 現在研究しているテーマ、ワタナベによる津田さんへの逆インタビューなど、とにかく話題の絶えない楽しい時間でした。
ワタナベのインタビュー記事はデザインのひきだしNo.52に掲載されておりますので、ぜひご一読ください!

デザインのひきだし津田氏とワタナベ対談の様子

そして、4月上旬にいただいたデザイン案がこちら!

デザインのひきだし52 表紙デザイン案
印刷なしの全面エンボスで星座モチーフを表現 
ピンクのところは型抜き加工

わーかっこいい!!と思いながらメール本文を読むと

「なるほど、ご希望は 全面彫刻エンボスで・・・ん?最終納品がここだから、版はここまでにないといけないよね・・・・?」

詳細は控えますが、手汗がビシャっと出るぐらい緊張感のある納期設定ではございました笑

社内で協議した結果、全面彫刻エンボス版というのは、納期的にかなり無理がある。

かといって全面腐食エンボス版だと元々のイメージと合わない・・・
ということで、どちらの利点も生かせる版として、  腐食版と彫刻版をかけ合わせたハイブリッド版をつくることにしました。

これであればエンボス加工も1工程ですみます。
(彫刻版と腐食版を別々でつくると、エンボス加工が2工程になる)

当初、抜き加工はレーザーカットと伺っていましたが、納期等の関係から 腐食刃による抜き加工になりました。

そうなると、 抜き加工の際に刃型がエンボスを潰してしまいかねない、という懸念があることから、 今回の彫刻エンボスは、通常のものよりも深度を浅めに設計することにしました。


デザインのひきだし52 表紙エンボス版 3Dモデリングデータ作製


デザインのひきだし52 表紙元データ 鉛筆下書きのような画像データ

まずは製版データを作製します。
当初グラフィック社からいただいたデータはこのような画像データでした。

このまま製版すると線が切れたり、不要な点(ブツ)が出てしまったりします。

デザインのひきだし52 製版用データ

これを製版ができるようにモノクロ2階調のデータに変換したものがこちらです。

できるだけ元データに近い状態、かつ細かい線がなくなってしまわないように修正していきます。

こちらのデータをもとに、3Dモデリングデータを作っていきます。
どこをどのように浮き出すか、どのような質感を付与するか、などは3Dモデリングデータを作製する時に決まります。

経験豊富なデザイナーがモチーフのニュアンスを見事に捉えたデータを作製してくれました。

デザインのひきだし52 3Dモデリングデータ
3Dモデリングデータ
表1の左半分と「デザインのひきだし」の文字が彫刻エンボス
デザインのひきだし52 3Dモデリングデータ
刃型線・腐食部分もこちらの3Dデータに反映されているため、
社内・社外でのデータ確認にも非常に便利。
複数の技術を集約できるのもツジカワならではの強み

デザインのひきだし52 表紙エンボス版 腐食→彫刻→仕上げ

データ承認が出たので、まずは腐食作業に取り掛かります。
腐食作業も彫刻作業も、加工現場は機密性が高く、残念ながら工程をお見せすることができません。

デザインのひきだし52 エンボス版 腐食後
腐食後の版
彫刻加工がされる部分が空いている状態。
デザインのひきだし52 エンボス版 腐食後 アップ
細いところで0.2mm程度の線幅。
浅く見えるが、実際の表紙を見ると
細い線でもきっちりエンボスが出ているのがわかる。

続いて彫刻作業にうつります。腐食版を機械にセットして、

マシニングセンターで彫刻したものがこちらです(料理番組形式)。

デザインのひきだし52 エンボス版 彫刻後
溢れ出す立体感!

これで完成!といきたいところですが、よく見ると版に切削工具が走った痕(切削痕)が残っています。

デザインのひきだし52 エンボス版 彫刻後
モチーフの中に見える細かい線が切削痕

切削痕がエンボス加工に影響しないように、繊細な凸凹を確認しながら、サンドペーパーなどで削って消していきます。

デザインのひきだし52 エンボス版 仕上げ工程
仕上げをしてくれるのはこの道28年の職人
デザインのひきだし52 エンボス版 仕上げ作業
指で細かい凸凹を確認しながら作業をしている。

一度削ってしまうと元に戻せないので、触ってはいけないところの見極めや、削りすぎない力加減などは、作業者が今までの経験で体得したものが頼りとなります。

デザインのひきだし52 エンボス版 仕上げ作業
実際に男性のモチーフを触ってみると、
見るだけではわからない微妙な凹凸で、
肩や胸筋の盛り上がりが表現されていました。

今回の彫刻エンボス版は通常よりも浅めのため、 人間のモチーフのように、凹凸がたくさんある形状などは、かなり微妙な高低差で変化がついています。

データ作成者の意図を汲み取りながら、その凸凹を消さないように、手で、目で確認しながら作業を進めていきます。

ニュークリアダイ(型取成型雄版)の作製

エンボス加工はこのように、金属凹版と、樹脂凸版で紙を挟み込んで加工します。

彫刻版のエンボス加工図解

今回凸版として使用するニュークリアダイは、一般的なエンボス加工に使用される感光性の樹脂凸版と違い、緩やかなカーブがついた形状や、尖った形状など複雑な凹凸をつけられることが特徴です。

※エンボス加工についての詳細はこちら→エンボス加工 とは?デボス加工 とは?版の種類や仕組みを徹底解説!

彫刻エンボス版 ニュークリアダイ
金属版に樹脂を流し込んで作製する。
彫刻エンボス版 ニュークリアダイ 狼のモチーフ
感光性樹脂版(ナイロン版)の場合、
このような複雑な凹凸を作ることができない。

デザインのひきだし52 腐食刃について

版と平行して、型抜きに使用される「腐食刃」も作製します。

腐食刃と聞いてイメージがパッと浮かぶ方は少ないと思います。

腐食刃は、薄い金属板(最薄0.5mm最厚2.5mm)を腐食してから、マシニングセンタで刃をつけたものです。
マグネットが埋め込まれた金属ロール(マグネットロール)に巻きつけて使用したり、トムソン(ビク)刃のように抜き機にとりつけて使用します
刃の継ぎ目がない、精度が高いといった特長があり、紙だけでなく工業用フィルムやテープの抜き加工などに使用されています。

デザインのひきだし52 腐食刃
今回使用されたツジカワ製腐食刃
「え?こんなに薄い金属板で紙が切れるの?」と思いますが、ちゃんと切れます。

今回は総厚1.2mmの刃型を使用しました。

でもこの刃高をあげればもりもりの彫刻エンボスでも抜くことができるじゃん? って話なんですが、それをすると今度は細かい隙間の刃が作りにくくなっちゃうんですよね。あと刃の側面がエンボスに干渉しないように、絵柄よりちょっぴり外側にオフセットした設計で刃を作製しました。

このように、刃とエンボス版両方にとって「ちょうどいい」設計が求められる場合、ツジカワなら社内で打ち合わせしながら進められるため、非常にやり取りがスムーズです。
すごい、ツジカワって便利!(宣伝)

なんとか全ての版・刃型が納期に間に合ったので、
「加工がうまくいきますように!!」と東京方面に手を合わせながら版と刃型を送り出しました。


デザインのひきだし52 エンボス加工立ち会い

エンボス加工を行うのはデザインのひきだしの表紙加工を10回以上手掛けておられる有限会社コスモテック様です。

デザインのひきだし55 熱板に取り付けられた彫刻エンボス版
箔押機に取り付ける前のエンボス凹版
積まれた加工前の紙
デザインのひきだし55表紙に使用するのは
ヨシモリ株式会社様の「ノスタルジー・メランコリー」
コスモテック様エンボス加工作業風景
加工を担当してくださるのは
コスモテックの太田さん
デザインのひきだし52 表紙エンボス加工後
しかしこの紙、本当に角度によって全然色味が違う・・・!
コスモテック様 作業風景
オス版(ニュークリアダイ)の下に薄い紙などを貼ってエンボスの出具合を調整する。
デザインのひきだし52 エンボス加工後の表紙をチェックする人
弊社営業もチェック

今回のエンボスを浮きあげるためにかなり圧をかけて加工いただいたとのことでした。


デザインのひきだし52 型抜き加工立ち会い

翌日に株式会社東北紙業社様にて型抜き加工の立ち会いがあり、私も参加させてもらいました。

東北紙業社様外観

細かい型抜きの作業なのでうまくいくか不安に思いながら東北紙業社様を訪れました。

工場の奥に目をやると・・・

デザインのひきだし55 型抜き加工後の表紙
すでに型抜き済の紙が・・・!

美しく加工されている表紙を見て胸をなでおろしました。

東北紙業社の加藤さんいわく「前日コスモテックさんの立会で、少しエンボス位置をずらしてもらったから 作業がだいぶ楽になりました」とのこと。

通常は加工後に断裁して仕上がりサイズに加工しますが、今回は最初から仕上がりサイズの紙を加工しているため、紙端ギリギリに型抜きの刃がある状態になっていました。

デザインのひきだし52 カットNG例
紙端に刃があるとスパっと紙が切れず、
引きちぎるような切れ方になってしまうことがある。

そこでエンボス加工立ち会いの際に、位置を少しずらすよう指示を出されました。小さな気遣いですが、こういったことに気がつくか否かで、仕事の美しさや早さがかわるんだろうなぁ、と感服。

加工工程も見せてもらいました。

デザインのひきだし52 表紙加工の前に剥離紙を貼る作業
傾斜のついた装置で紙をそろえて、
微粘着加工した台紙を貼り合わせていく
デザインのひきだし52 型抜き作業
「倒し」と呼ばれる機械で位置合わせをして型抜き
デザインのひきだし52 型抜き作業
型抜き加工後、微粘着のついた台紙を剥がすと・・・
デザインのひきだし55 型抜き加工後の表紙
完成!
カスは微粘着のついた台紙に残る
デザインのひきだし52 型抜きに使用された腐食刃
刃型にはスポンジが貼ってあり、
カスを押し出す仕組みになっている。

写真でみると単純な作業に見えますが、 作業のひとつひとつに細かな気遣いと段取りがあります。

東北紙業社様内観

デザインのひきだし52 表紙加工完成!!

こうして表紙が完成しました。
詳細はぜひぜひデザインのひきだし52、本誌でご確認くださいッ!

デザインのひきだし52 表紙
デザインのひきだし52 表紙
デザインのひきだし52 表紙
実物はもっともっと美しいです!
ぜひ手にとってくださいね!

弊社としても、この紙で全面エンボスというのは初めてだったため、色々と勉強になることがありました。

経験を活かしてもっともっとスーパーな版を作っていきます!!

最後まで読んでいただきありがとうございます。

デザインのひきだし52 表紙 エンボス版